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園長の日記

第三者評価の限界と保育の質

2022/12/09

園長向けの研修会で、監査と第三者評価について講義する機会が12月5日の夜、東京・高田馬場の「日本児童教育専門学校」でありました。このシリーズ講座は同専門学校と私の法人の理事長である藤森平司氏が、共同で企画開発し始めたものです。

今行われている保育士向けのキャリアアップ研修では、各分野の最新の制度改正後の概論の確認が中心になっており、国のガイドラインに突き合わせながら、代表的なテキストを調べてみると、受講スタイルは説明&参加者のディスカッションとなっている場合が多いようです。当園の受講者の報告によると、要領や指針が本来目指していることを掘り下げた説明は講師によって差があり、例えば中教審答申に至る過程で影響を与え続けている世界の動向(例えばラーニングコンパスのAARサイクルの意味とコエイジェンシーの関係、社会情動的スキルの育み方など)をはじめ、脳科学などの学際的知見、文科省や内閣府が目指している<学びのパラダイムシフト>などを学ぶことができない、という認識から試行しているものです。

それに合わせて、施設長がアップデートする機会も作ろうと、園長向けの研修も始めたのです。その日は、私の持ち時間90分のうち、監査について20分、残りの多くを第三者評価について説明しました。

監査、学校評価、第三者評価そして自己評価の関係は、それぞれ所管やねらいが異なることからくる違いを確認した上で、共通の問題点として整理したのは、次のとおりです。

一つは理念や目標の再構築過程の評価が弱いことがあります。福祉施設の第三者評価は東京都の場合、めざす理念の内容が問われることがありません。極端なことを言えば、赤ちゃんは白紙で無能という認識のままでも(実際にそう思って保育をしている保育園長がいましたから)、その発達感に基づく保育を実現させるために組織が一丸となって、大人が主体の、子どもを上手に動かす一斉保育が見事に展開されていても、いいのです。

確かに第三者評価の組織マネジメントでは、6つのカテゴリー全体を一年単位のPDCAで回すことになっている(その自己評価がカテゴリー7)のですが、理念(は目標概念ですが)の再構築は、カテゴリー1の名前が「リーダーシップと意思決定」となっているように、その見直し過程のプロセスの評価はあっても、その理念そのものも価値判断は、各法人や施設に任されているので、そこをどうするのか、という問題は第三者評価の圏外になってしまします。

もう一つ、大きな問題だと思うのは、第三者がまるで神の目のように、課題を指摘してもらえるかのように勘違いされている節があるのです。そんなものはありません。最初に評価の基準というものが示されて、その枠の中でやっているものなので、その評価の基準そのものを問い返してもいいのです。

でも、そんな発想は現場からはなかなか出てきません。唯々諾々と、あります、やってます、にしておいて、その裏付けを探しているというのが実態です。監査は法令遵守ですから、ありません、やってません、は指摘されますから、全て「◯」にしないといけませんが、第三者評価は、本来、それの上乗せ部分を評価するのが建前ですから、濃淡があってもいいのです。それがその園の強みや特徴となって、利用者の選択に資する、という考え方です。

ただ、これが最も深刻な構造問題なのですが、東京都の場合は、日本経営品質協会の顧客価値創造経営のモデルを社会福祉に持ち込んだものなので、どうしても、利用者の満足度が幅を利かせる評価構造になっているのです。端的に言って子どもの経験の質が中心にはないのです。延長保育の要望があったら速やかに対応できているか、長時間保育に対応した指導計画をもとに、その工夫をどうしているか全体の計画に位置付けいてるか・・・などが目立ちます。

このことを考えてもらうために、講義では学校教育との比較をしてもらうました。保育所は、直接契約の元で、福祉サービスとい言葉(学校教育にはサービスという言葉は出てこないと思いますが)が表しているように、そこに向けてサービス競争を促す構造はあっても、幼稚園のように教育課程、カリキュラムのマネジメントの質に向かわせる組織の動機が発動しにくいのかもしれません。

そして達成した途端に、新しい地平が見えてきます。新しい頂が覗きます。そこと現時点の差が課題です。課題は第三者から示唆を得ることもありますが、組織の「仕組み」になっていく過程で、必ず新しい目標が見えてくるものなので、その差が新しい目標になっていきます。ここでいう課題は、最近流行の議論で言うなら、最上位目標の再定義と言い換えてもいいでしょう。

私は、第三者評価にしても、保育の質の向上は、子どもの経験の質をプロセスとして捉えることから始まると思ってきました。物や空間のアフォーダンスにまで立ち返り、同時に精神や自我が社会とどういう関係になっているのかを考える時間をできるだけ確保しつつ、資質・能力が創発する環境としての保育園、学校の在り方を考えています。

そのためには、子どもがどんな体験をするのが望ましいと考えているのか。掲げている理念にそれが現れているはずです。その一つをとっても、私には理念の再構築はずっと続いてきた物でした。組織は学び続ける必要があります。第三者評価を受けることでその中身が出てくるわけではありません。それは理念実現に向けた自己評価のための参考指標なのです。望ましいと思える理念は、<私たち>で織り成していくものであって欲しいと願いながら。

 

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