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園長の日記

好きな選択ではなく必要な選択へ

2022/05/20

選択場面が自立をどう育てているか、というテーマの話になってきました。その続きです。

私は子どもたちといると、よく感じるジレンマがあります。それは自分の「好きなこと」と「必要なこと」の間の選択です。保育園生活では、この二者間の選択を迫られていることが結構多いのです。この二つのジレンマとして表現することが、先生たちにはピッタリするようです。

わいらんすいの子どもたちと遊んでいると、いろんな場面でがまんをしながら、やりたいこととの折り合いをつけながら自分をコントロールしていることがわかります。朝3階へ登ると、多くの子たちから、例えば「園長ライオンやって!」と声をかけられます。それができる時とできない時があって、出来ないとわかると、子どもたちはきっと「今日はダメか、じゃあ、いつならできるんだよ!(プンプン)」と思いながらも、がまんする時もあるのでしょう。園長だから大目に見てくれているようです。

今日は、終わる時間になって「ぼくもやりたい。やっていい?」と始めようとする子に「今日はもうおしまいだから、またやろう」というと「じゃあ、お集まり終わったらやる」というので、「今日は晴れているから散歩に行こうよ」というと「じゃあ、帰ってきてから」・・こんな問答を繰り返しながら、結局、その子は「なし」を受け入れて、折れてくれました。やりたいことを我慢して、自分の気持ちに折り合いをつけることできました。今日はうまくいきましたが、子どもによっては、それがまだ出来なくて駄々をこねる場合もありますし、いつもは出来ても出来ない日もあったりする子もいます。

こんな葛藤は、子どもの生活の中にたくさんあります。遊びを終えるか続けるか、お集まりにすぐ行くか遊び続けるか、散歩にいくか行かないか、これを食べるか食べないか、お昼寝をするかしないか、いろんなことを自分で判断して決めて選ぶということの連続です。

5月18日の「わらすのブログ」には、先生がこう書いています。

<・・・保護者会でもお話ししたように、この一年間は【自分で選択をする】ということを大切にしていきたいと思っています。これは、自分が好きな選択ではなく、自分に必要な選択をしていくということです。・・・>

「必要なこと」は、一般的には習慣やきまりや規範です。この二つの間の選択の葛藤が、家庭でもしょっちゅう味わっているでしょう。「しつけ」で起きていることです。いわゆる「社会性」です。確かに他者との関係から生じるものなので、社会性なのですが、一見自分のことのように思えながら、極めて社会的な選択になっているエピソードを紹介します。

それはドイツのインクルージョンの話です。日本では他の人と同じだと安心し、異なると不安になるという「安心社会」(山岸俊男)だという見立てがあります。それが例えば小学校入学の時に保護者の考え方にみられます。日本では小学校への就学に必要な力が不十分であっても、なんとか追い付かせて入学させようとしますが、ドイツ・バイエルン州のミュンヘン市では、「うちの子はまだ学校は早い」と言って、就学を待って(ステイして)、キンダーガルテン(幼稚園)でもう一年過ごしたりします。

学校へ行っても、必ず毎年進級するのではなく、この年が大事だからともう一年ステイしたりするのです。日本だと留年と同じようなイメージなってしまいますが、この認識の差を考えた時、どっちが本当に子どもの人権を尊重しているんだろうと思います。日本では同じでないと「かわいそう」になってしまうのですが、ミュンヘンでは、本人の発達や個性に合っていないと「かわいそう」なのです。

この話は、個人の選択であるように見えますが、極めて社会的な選択でもあります。どんな意味でそれを価値あるもの、よきもの、善さとみなすかという問題が、選択の基準になるとき、その基準が社会的な通念や常識を反映しているからです。非常識と思えるものを選択するときは、強烈な決意が必要なのが、日本なのです。それだけ価値観は平板で多様でもなんでもないのです。それを数年目に亡くなった山岸俊男さんは「安心社会」と呼び、これからの時代は自己の価値判断を尊重し合い、他者を信頼することができる「信頼社会」へ移行しなければ、日本型システムは世界の中で行き詰まるのではないかと心配していました。

この話と、好きなものを選ぶのか、必要なものを選ぶのか、ということが通じ合うはずなのです。

そして、その必要なものを選ぶために前提となってくるであろう、育ちの長い過程を、担任は2枚の写真を並べることで、示唆しています。見事な説明だと思います。

乳児の頃に他者への信頼感や基本的信頼感はアタッチメントを通じて得ました。そして自発的に「必要なものを選んでいく力」の育ちのプロセスが大事だとしています。本当にその通りですね。お友達との関係には「同じだね」という共感があり、仲良しの親密感や安心感、好きなお友達との心の交流や支え合い、つまり協調性の根っこになるものが育まれていることを、小さい時からの2枚の写真を並べてみせたのです。

このように書いています。

<・・・「寝ることが必要」と思いながらも、遊びたい気持ちと葛藤していたUちゃん。すると、Rくんが「一緒に寝る?」と誘い、しばらくお布団でゴロゴロしながら体を休めていました。Uちゃんも日々、自分の気持ちと葛藤しながらも時間をかけて自分に必要な選択に向かって進歩中です・・・!できた・できないの結果ではなく、そのプロセスが大切なので、その過程を大切にしていきたいです。>

本当に、その通りですね!

 

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