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園長の日記

国際理解の意識の芽生え

2023/05/25

園生活には行事や栽培活動、他園との交流など「共通体験」といって、子どもたちが同じ活動を体験することがよくあります。毎月開かれる誕生会もその一つで、当園ではその月に生まれた子どもたちを乳児と幼児に別れてお祝いします。

担任がお友達の年齢やよいところ、好きな遊びなどを紹介してあげたり、お友達からの質問に答えたりします。そしてプレゼントを渡して歌を歌ってお祝いします。その後、毎回、ちょっとしたお楽しみの出し物があります。今月は乳児は絵本の読み聞かせ、幼児は世界の国を紹介するスライドショーでした。

絵本の読み聞かせにしても、何かの紹介にしても、それが子どもたちにとって身近なものになるのは、よく知っている好きな先生がやってくれるからでしょう。例えば今日の世界の国の紹介は、T先生が実際に旅行に行って撮ってきた写真や動画を使っているので、その写真や動画の中にT先生が出てきたり、実際に出会った人や出来事の話がリアルでとても身近な感じがします。「これ、つぼいっちが撮ったの?」とか「あ、(先生の)バイク乗ったの?」とか、興味がぐ〜んと湧いているのがわかります。

今回のテーマは「いろんなくにのみちをあるいてみよう」でした。紹介された国は、日本、エジプト、ヨルダン、レバノン、タジキスタン、キルギス、ソマリランド、エチオピア、ガテマラ、ヘルーと、ちょっと大人でもあまり行ったことがないような国々ばかり? ではないでしょうか。というのはT先生は若い頃から世界50ヵ国以上を訪ね歩いてきたバックパッカーでもあり、いろんな国の生活や文化や考えを実際に体験しています。

話は保育園の前の「道」から始まりました。見慣れた風景の中にある「道」。散歩で通る道で見かけるスーパーマーケットが映し出されると。「あ、マイバスケット!」「◯○ちゃんのち(お家)!」と声が上がります。日本の「田舎の風景」も映ります。山、田んぼ、青い空に白い雲。長閑な自然な風景です。その風景は真ん中にアスファルトの道路が走っています。そうやって景色を見ると、私たちは「道」からしか景色というものを見ていないのだなあ、と気づきます。人が歩けるところからしか、見ていないかもしれない風景。

 

そして浅草寺の仲店通り。「あ、行ったことある!」・・この春は外国人が大勢歩いていて、数年前の風景に戻っています。その観光地のように見える風景は、今後<日本中でみられるようになるかもしれない風景>かもしれません。

(写真:レバノンの市街地)

すでにスーパーマーケットや牛丼チェーン店の人は、中国、韓国、ベトナム、インドネシア、ネパール、スリランカ、ウズベキスタンなど、いろんな国の人が働いています。こんなに身近に外国の人がいるのに、まだ接点があまりありません。そのうち、その方々の子どもを保育園で預かるようになって、家族ぐるみのお付き合いが始まるかもしれません。

(写真:レバノンから見たシリア方面。あの山脈の向こうは戦争をしている)

映像は世界地図、国旗、そしてその国の道から見た風景、スパーマーケットに相当する食べ物を売っているお店、人々の姿、話し声、そういうものが順番に映し出されていきました。T先生の意図は、見ている子どもたちに、道とスーパーがどうなっているか?という視点をもって、自分が歩いているように感じてもらえたら・・というものです。

(写真:タジキスタンは平均高度は約3000m。世界で最も標高の高い山岳国家)

タジキスタンの写真を見せながら「みんながよく知っているものが、何もないでしょ、何がなんだと思う?」というナゾナゾに一生懸命考えています。答えは「木や草とか、ないでしょ。ここは富士山よりも高いところだから、野菜や果物や草が生えないんだよ」。(そういえば、子どもたちは、クイズや謎々にすると、とてもよく考えてくれます)そして「じゃあ、牛は?」「草がないから牛さんや馬さんもいないんだよ」「食べ物がないの?」「そう、もっと低い場所から運んでくるんだって」・・

(写真」:ヨルダンの市場)

今回の旅で出てくる国の中で、日本のスーパーのように、建物の中に整然と食糧品が並んで売っているようなところは都市部以外にはほとんどなく、道端に点々と敷物を広げた露店が連なっていたり、荷台が並んだ屋外マーケットのような市場に大勢の人々が行き交っているという光景です。

(写真:キルギスまで降りると牛や馬の群れが列をなして道路を歩いている)

自動車と自転車の走る道路を、女性が頭に荷物を乗せて歩いていたり、何十頭もの馬や牛が歩いていたりします。日本では見たことがない人々の様子に「おもちゃ屋さんはあるの?」などと、見入っていました。

世界の旅は、中東、アジアからアフリカへ。

(写真:エチオピアの住宅街と市場)

経済統計で「貧しい国」と言われるアフリカの国々。実際には国と地域でその実態は様々。そのひとつ、ソマリランドの空は澄み切って美しいのですが、生活圏は「ほら、道にいっぱいゴミがあるでしょ、ゴミも処理するところが少なくて困っているんだよ。雨がほとんど降らないから、草とか野菜とかも育たないんだ」と。♪はたらくくるま、でよく知っている「ゴミ収集車」なんてないんだよ。

(写真:ソマリランドの道路と澄み切った青い空)

ガテマラは地盤沈下で近くの湖よりも低くなり水浸しになってしまった道路に「どうして?」「雨?」などと、疑問の声が挙がりました。私も子どもたちと一緒に「へえ〜、そうなんだ〜」の連続です。気候変動や戦争、経済の話は難しくても、子どもたちは着ている服や言葉の違いに気づきます。

(写真:ガテマラの水没地域)

また私たち大人も、食べ物ひとつにしても、日本はなんと贅沢な暮らしなんだろう、食料品がちょっと歩いて行ける場所に、こんなに豊富に並んでいるのが、まるで奇跡のように思えてきます。

最後はペルーの地上絵。道路からは、その絵は見えません。飛行機のない時代に、描いた本人たちにもその全体像を見たことはなかったはずなのに、よく描いたものです。T先生の撮った延々と続く「車窓からの動画の風景」を見ていて実感します。

 

(写真:ペルーの砂漠と上空からみた地上絵)

私たちの知らないこと、不思議なことがたくさんありますね。彼の話を聞いていると「日本の中だけで考えているとヤバイかもなあ」と思います。私たちが常識と思っている生活のあり方や、染み付いている考え方の、ある種の偏りに気付かされるひと時でした。

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