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園長の日記

象さん、なんであんな風に動かないのかしらん?

2023/04/20

今日紹介したいのは「見方・考え方」を考えていたときに出会ったエピソードです。毎日のように、子どもと接していると、ちょっとした小さなエピソードがたまっていきます。流れていく生活の中から何を「エピソード」として拾い出すのか、何を考察する対象として振り返るのかは、こちらがかけている「メガネ」次第。「あは〜ん、やっぱりこちらが見方を学ばないと見えてこないなあ」と思い巡らしながら、これを書いています。私の「思い巡らし」は、ただの迷い道みたいなものなので、そのことは棚上げしておいて、それよりも子どもが「思い巡らす姿」に出会った時のことです。4月19日に乳児の部屋でしばらく遊びをそばで見ていました。

すると、私と衝立てで「いないいないばあ」をしたがる子がよって来て、私が相手をしてくれることを期待して、私と衝立を挟んで自分から、いきなり、しゃがみ始めたりします。<お、もう始まるの!>と私がちょっと慌てますが、子どもは思い立ったが吉日、待ってはくれません(笑)。でも、同時にまた別の子が玩具の自動車を「ほら、これ」と言ったふうに見せてくれたり、読んでほしい絵本を持ってきて私のそばにドンと置いたりする子も来ます。

今日の振り返りはこっち。どんぐりのような形をした木製の人形が、コトコトと坂道を下っていくおもちゃがあるのですが、さっと動かず、ゆっくりとコトコトなので、1歳4ヶ月のその子にとっては面白さがまだわからないようでした。握ってはポイ、という状態。どんぐりが壊れていないか点検を兼ねて、私はあまり意識せずにそばにあったレゴの象さんを手にとって、自分で坂道を動く人形「どんぐり」を追いかける遊びを何度か繰り返しました。私が像を揺らしながら「待て待て〜」とどんぐり追っかけます。まな板の台から落ちるときに「どて!」と倒れるという遊びです。先生はふだん私のように「介入」しない方がいいのですが、まあ、結果的に遊びのモデル提示みたいになってしまったケースです。というのは・・・

(写真はカタログから)

どんぐり人形遊びを終えてしばらくすると、それを見ていたらしい別のSくん(1歳10ヶ月)が近づいてきて自分でまな板の上にレゴの「象」人形を置いて、動くかどうか置いてみてたのです。私は手でゆらゆらと動かしたのですが、その子は自分でその動きをするかどうかまるで確かめたかったかのように、置いたり揺すったり試行錯誤しているのです。これは私の解釈ですが「あれ、動かない」といった風に見えます。そこで、その姿に私は「思い巡らす」がぴったりだな、と感じたのでした。

(写真はカタログから)

「思い巡らす」ということを学んだのは、ある教科書の「幼児教育の根幹」と題する「見方・考え方」を解説した文章からです。それをいかに引用します。

「・・・(子どもが)環境の関わり方を知り、こうしたいという思い気持ちをもち、それを取り込んで、自分のものとして自分の力でやってみたいと思うことから試行錯誤が生まれる。これは体を使い、諸感覚を使いつつ、思い巡らすことである。思い巡らすというのは、「じっくり考える」「あれこれ悩む」「こうかなと思う」「こうしようとする」といった、子どもの内面的な、知的であり情動的なことを表現した様子である。」

どうですか?乳児もいろいろ「考えている」んですよね。保育界ではルチアちゃんの時計エピソードが有名なのですが、私にはその事例の分類ケースにこれが加わりました。そして、その子の姿を見ていたら、なんだか私と同じだ!と思えてきます。私のワーキングメモリーは「環境との関わり方や意味に気づき」という言葉の謎解きで、「メモリーいっぱい、もう録画できません」のビデオデッキみたいで、外付けのハードディスクが、最近はchatGPT経由のクラウドに移っていく予感を感じています。

ちなみに、幼稚園教育要領の「見方・考え方」は「〜考えたりするようになる」ですが、無藤先生の文章は以下のものです。私はこっちの方を併せて、じっくりと「思い巡らして」いるところです。鈴木宏昭さんの「思考力などのきわめて曖昧な能力を検討しているきちんとした研究は現在では存在しない。そうしたものは中身が不明であるため、直接に研究を行うことはできないからだ」(ちくまプリマー新書『私たちはどう学んでいるか』P26)といった言葉に出あって、こういうことは「早く言ってよ〜」と、松重豊になりたい気分でもあるのでした。

以下は補足メモ。

「幼児がそれぞれ発達に即しながら身近な環境に主体的に関わり、心が動かされる体験を重ね遊びが発展し生活が広がる中で環境との関わり方や意味に気づき、これらを取り込もうとして諸感覚を働かせながら試行錯誤したり、思いを巡らせたりする」(萌文書林「改訂 事例で学ぶ保育内容」シリーズの第1章「幼児教育の基本」から無藤先生の定義)

「幼児が身近な環境に主体的に関わり、環境との関わり方や意味に気づき、これらを取り込もうとして、試行錯誤したり、考えたりするようになる」(幼稚園教育要領)

上と下を比べると、無藤先生の方が長くて下線を引いたところが、要領にはない文言のところになります。

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