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保育アーカイブ

すいすい「ブレーメンのおんがくたい」

2021/12/23

私は、社会の中で大人になるというのは、自分の意見をしっかりもつ、ということと同時に、他人の意見もしっかり受け止めるという両立や合意や共生を創り上げていくことだと思っています。保育所保育指針や幼稚園教育要領の教育のねらいにこうあります。「他の人々と親しみ、支え合って生活するために、自立心を育て、人と関わる力を養う」(人間関係)。人は協力するために自立するのです。

現代の社会の大きな課題の一つは、このデモクラシーの危機と直面していることです。保育園生活といえども、立派な人格を持った一人ひとりの子どもたちが、大人と一緒に創り上げていく生活ですから、その生活の中には、意見の調整という力の育ちも期待されています。何かを創り上げていく中で、そうした営みに、どれだけ一人ひとりが「参画」できているかが、保育の大きな焦点になります。

人間関係が発達していくというのは、このような力が引き出されて育っていくような集団になっていくことを意味します。すいすい組という小さなコミュニティが、どのように成長してきたか、そこを感じてもらえたら嬉しいです。

ですから、まず、好きなお話がそれぞれあって、どれにするかを自分たちで決めることができたところに、とても大きな発達の意味を感じます。

以下、担任が見とった言葉を紹介します。公開動画のイントロダクションから、引用したところは<  >で表します。

<数冊ある絵本との出会いから始まった話し合い>。テーブルには「おおさまとこどもたち」「ブレーメンのおんがくたい」が乗っていますが、実は「スイミー」も候補になっていました。

<子どもたちが元々知っている絵本もあれば、新しく見た絵本もある中で、話し合いが始まりました。初めは「ぼくは、わたしは、これがいい」と自分の意見を伝え合うだけだったのが、話し合いの途中から。「どうやって決めようか?」「どうしてこれがいいの?」「やりたい役はどれ?」と相手の気持ちを引き出すやりとりが始まりました。ただ、そうはいってもなかなか決まらず、「こっちの絵本で◯◯役をやりたい」と、話し合いは1時間続きました。そんな中、子どもたちの中で意見をまとめる役が生まれて、一人ひとりの気持ちを聞き、譲ってあげる子がでてきたり、提案する子が出たりして、劇遊びは「ブレーメンのおんがくたい」に決定しました。>

まず、ここが素晴らしいですね。決まるまでの過程に大きな成長を感じます。

さらに、すいすい組(5歳児クラス)の劇遊びを見ていると、劇が仕上がっていく過程で、子ども自身がその面白さを発見してくことプロセスが伝わってきます。

<台本を見ながら読み合わせをしたり、自分の役の台詞を何度も練習したり、練習する時間は少なかったですが、すいすい組みんなで協力しながら取り組んできました。練習が終わると「またやりたい!」とアンコールが出るほど、子どもたちは楽しんでいたようです。友だちと一緒にいう台詞、一人でいう台詞、それぞれの表現で楽しんで出来たと思います。>

関係性の発達として、付け加えるなら、子どもたちは保護者の皆さんに録画して見られる、ということを知っていますから、「よく演じる」という意識も感じられます。その場合の「よく」ということは、本人たちは、それこそ「よく」は、わかっていないのですが、それでも「見られる自分」ということから「演じる」という役者的な振る舞いが感じられるところが少しありました。

またナレーターも登場したり、台詞も随分と長いものになっています。らんらん組の時に「人生は旅に例えられる」という話をしましたが、この「ブレーメンのおんがくたい」も、その典型的なお話でしょう。旅に出て知らない人と出会い、悪と闘い、守るべき価値に気づく。生きることの真実に触れている感触が、謎のようになって残るような物語。長く伝わっている神話やお話というのは、どの物語にも、行って帰ってくる幸せの場所が示されていますね。

劇遊びの世界と現実の世界。その区切りも、自分たちで「おしまい!」と宣言して、「〇〇を演じた◯◯です」と自己紹介という形で、保育園生活に戻ってきます。そして「また、やりたい!」と、子どもの本分=遊びへと帰っていくのでした。

 

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