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園長の日記

成長展のためのミニ連載(13)模倣と知性

2021/02/13

子どもの成長には遊びが不可欠ですが、その遊びの特性の中心に「模倣」があるということを、このミニ連載ではお伝えしてきました。その模倣の中でも、物を何かに見立てる「見立て遊び」や、自分が何かになってみる「ふり遊び」あるいは、複数の子どもたちが役割を担いあって実生活やフィクションの世界を作り上げる「ごっこ遊び」の意味合いを説明してきました。

◆子ども同士の関わりから生まれる模倣

いずれの遊びでも、当園の場合は、子ども同士の関係の中で、それらが生じていることに注目しましょう。子どもの側に心を許しあう友達の存在があり、その存在を介して「真似っこ」や「やってみたい」が生まれています。満2歳になった頃から「ごっこ遊び」が成立している姿は、保育学の記述よりも、半年から1年ほど早い子どもの姿になります。大抵は満3歳以上の子どもの遊びとして「ごっこ遊び」が登場することになっているからです。

◆1歳児クラスで始まる「ごっこ遊び」

「ごっこ遊び」は英語でいうと「ソーシャル・プレイ」です。社会的な遊びというニュアンスが入ります。社会性の経験、つまり子ども同士の関わりの経験は、満3歳からで良いという世間の常識は、世界的な乳幼児研究ではすでに否定されていて、保育所保育指針でも乳児つまり0歳の赤ちゃんの頃から、人との「気持ちの通じ合い」が重視されるようになっています。

ただ、そこで想定されている「気持ちの通じ合い」は、親や保育者など大人と赤ちゃんとの間のもので、当園のように「赤ちゃん同士や0〜1歳児クラスの中での子ども同士」などを想定していません。当園の保育は、人類の進化心理学や伝統的社会の子育てなどから分かってきている最新の学際的な知見を踏まえて、「赤ちゃんの成長には、子ども同士の関わりの中で育まれるもの」を大切にしてきました。成長展の特別展示では、その様子を写真や動画でご覧いただきます。

◆保育の質は正統な文化的実践への参加

ところで、保育の質とは何かというと、それは子どもの経験の質に他なりません。では、その経験の質が良いとか高いというのは、どういうことなのでしょうか。質が良いというのは量的に何かが多いとか高いということではなく、成長の意味の質を問うことになります。個人の育ちに還元してしまうものではなくて、一人ひとりの育ちを大切にすると同時に、それが生じる関わりや環境も大切にします。しかも模倣してもらいたい文化や歴史の正統性を吟味しながら、その文化的実践に参加していく営みを生み出すことが、保育の質になります。

◆人間は8つの知性を持つ多重知能の持ち主かも

そうなると、子どもが行っている生活や遊びは、どんな正統的な文化的実践になっているのかを理解することが大切になります。例えば、模倣遊びをみてみると、その子が何に興味があるのかがわかります。さらにその内容から、どんな分野の力が育っているかも、見当が付きます。再現する内容や世界は、その子の脳内で意味のネットワークが構築されたり、更新されたりしているのですが、脳科学の知見によれば、脳の部位と知性との間に、ある程度の相関が見られるといいます。その学説でよく取り上げられるものに、脳損傷症状の研究からM・ガードナーが見出したマルチプル・インテリジェンス(M I:多重知性理論)があります。

彼は「人間は8つの才能分野を独立して持っていて、どこが得意かは個人差だ」といいます。以下に8つを箇条書きしておきましょう。単に経験的に整理したものではなく、医学的にも脳科学的にも根拠を示しています。その根拠の中に脳損傷との相関症状があり、他の動物にも類似の能力が見られ、心理学のデータとも矛盾しないことなどが述べられています。得に私が感心したのは、この8つが全て表象体系に落とし込めることです。

①言語性知能 ②音楽的知能 ③論理・数学的知能 ④空間性知能 ⑤身体・運動覚知能 ⑥対人関係知能 ⑦内省的知能 ⑧博物学者的知能

このように人間の能力を見てみると、いわゆる「頭のよさ」は、ごく限られた才能でしかありません。多重知性論から見ると、学校の「学力」はとても狭いものになります。なぜなら研究者が行う学問を「親学問」だとすると、その研究遂行に必要な知識や技能について、その内容を系統的に整理して、難易度を落として学校種ごとに教科にしているのが学校の「学力」だからです。

◆子どもが持って生まれた力が遊びに躍動

確かに、私たち保育者からしても、対人援助職である福祉現場では、学校の勉強ができることよりも、⑥の対人関係知能が豊かで情操的な軽やかさや大らかさといった「知性」の方が大切です。世間ではそうした知性を人間性と大括りにしてしまいがちですが、人類の進化の過程で得た「人間らしさ」は、ガードナーがいうように、広く奥深いものなのでしょう。

乳幼児の遊びを見ていると、人間が持って生まれてきたものの豊かさを感じざるを得ません。やりたがる意欲の強さ、物事への好奇心の旺盛さ、意味ある体験の取り込む速さ、いずれも大人はかないません。そんな生命力に満ち溢れた子どもだちの姿を成長展では確かめてみてください。

 

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