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園長の日記

自然とヒトのバランスが崩れるとき

2021/01/11

日本海側で記録的な大雪が続いています。これも地球温暖化の影響かもしれませんね。産業革命以降、地球規模の気候変動をヒトが引き起こす時代になっています。近年の夏の暑さや大雨のように、自然の異変が身近に感じられるようになってきました。一説によると、2030年までに地球の気温を1℃上げてしまったら、北極の氷が溶け始め、そこに閉じ込められていた膨大なメタンが大気に放出されてしまい、ドミノ倒しのように2050年には気温が4℃上昇してしまうというのです。

気候だけではなく自然界と安定していたウイルスを、ヒトにも感染できるように変異させているのもヒトの仕業です。COVID-19もその例に過ぎません。過去にも、自然界の中で安定していたウイルスを人間社会に引っ張り出してきては、知らない間に疫病パニックを引き起こし、悪霊や魔女の仕業などと恐れてきたのが人類の歴史でもありした。

昨年6月に買った岩波新書『感染症と文明ー共生への道』(山本太郎著)をまた取り出してこの連休中に読み返しました。ウイルスは最終的にどうなっていったんだろう? コロナウイルスの行方を考える上で参考にしたかったのです。ウイルスは変異を繰り返しながら、最終的には発症しないで宿主である動物と共生することで安定していくものがあります。

例えば麻疹はメソポタミア文明ができたときヒトに定着しました。一定の以上の人口を持つ定住社会がないとウイルスは生きられません。ウイルスにとって都合のいいホスト集団(人間が集団を作って生活したこと)ができたからです。5000年をかけて地球上に広がってきたことになります。

それに比べて、ウイルスの感染効率はこの数百年で何10倍も早まりました。人口も増えたので広がり方も爆発的です。そのために変異スピードも速くなっています。それでも長い時間をかけてウイルスは安定するか消えていきます。山本さんは次のように書いていました。

「強毒ウイルスは、自らがもつ性格ゆえに消滅することになる。そして長い目で見たとき、強毒ウイルスは、自らの生存を支える宿主集団を巻き込みながら消えてゆき、潜伏期間が長く、感染効率と致死性の低い弱毒ウイルスが優位となる。このようにして、ウイルスとヒトとの間にある種の安定した関係が築かれていくのである」

これはHIVを例に挙げて説明しているのですが、コロナウイルスの場合は、まだ感染していないヒトがたくさんいて(感受性の高い人が多く残っていて)、感染爆発による変異爆発を起こしている真っ最中ですから、感染力が強かったり、強毒性をもったり、潜伏期間が短ったかりするような性質をもつ変異種が、これから出てきてもおかしくありません。日本でも数年たって、終息したように見えても、何年かしたらまた流行するということは大いにあるわけです。

記録的な大雪や水害や暑さなどの気象の変化も、ウイルスに影響を与えます。ヒトの中にはすでに安定して見えないウイルスと共存していて、その隙間があれば新しいウイルスが入ってくるような「動的平衡」(福岡伸一)も考えられます。宇宙ができて137億年、地球ができて50億年、ウイルスはすでに30億年前には発生していました。それに比べてホモ・サピエンスはたかだか20万年前に過ぎません。私たち自身の「生命」がウイルスとのバランスで成り立っているところがあるのかもしれません。

養鶏場の鳥インフルエンザの発生も同じ社会問題であると捉えたいところです。農林水産省は「ヨーロッパの動物福祉が輸入されたら養鶏産業は持たない」という判断にたっています。これもエシカル消費の世界基準から遅れを取ってしまいました。コウモリの中で安定していたウイルスが、ヒトにも感染するようになったのも変異だったこと、そして中国武漢の発生源が野生動物の売買市場だったことも忘れないようにしたいものです。

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